「サイボーグ・ブルース」平井 和正

「エイトマン」への鎮魂歌

☆「サイボーグ・ブルース」平井 和正
KADOKAWA、308ページ
暗さが際立つ近未来のSFアクションの傑作。


46年前の古典なのでネタバレあり

ニグロのアーネスト・ライトは同僚だった汚職警官に熱線銃で射たれ、サイボーグ特捜官として再生しました。時は近未来、人口5億ほどのメガロポリスが1ダースほどある。所はアメリカのディープ・サウスで、人種差別がはびこっている。特権階級は超A級アンドロイド狩りもすれば、人体改造手術で超人になってテレパスを襲ったりします。

怨念が生きる支え

世界警察機構のブリュースター長官からは
「世間はマンガ本の主人公のようなわけにはいかんのだよ。鉄の拳で正義を叩き出せれば、単純明快で胸がすっとするだろう。だが、法律を無視するわけにはいかない」(P60)
と慰留されますが、辞職してしまう。肉体を奪ったクライム・シンジケート(国際的な犯罪組織)への憎悪は強いけれど、警察組織に対する不信感も拭えません。

ダーク・パワー(闇の力)の暗躍

防御不能の記憶操作によって捜査が歪められる事件が発生、凄腕サイボーグ捜査官のマロリーでも対処不能。すでにプサイ能力研究は途絶えており、こうした超常現象を学問的に解明できません。そこで「虫の知らせ」に命を救われ続けてきたライトに依頼が来る。しかし、ライトも遠隔催眠で操られ、シンジケートのロボット戦車&殺し屋サーボーグ・リベラを撃破します。

選択肢は初めから無い

超精密機械のボディは定期点検を怠ると整備不良で老朽化していき、最後は加速状態で分解・爆散してしまいます。宇宙船1隻分の費用をかけたサイボーグ特捜官が組織を離れることなどできないのです。親友だったメンデイの正体はシンジケート・マンで人間爆弾となって散る。かつての恋人はとっくにシンジケートの操り人形で、精神制御装置付きベッドにライトを誘い込む。

統治機構の二つの顔

わずかに残された脳が感じる感情も裏切りの連続で摩耗していく。シンジケートは世界征服を企む悪の組織などではなく、連邦政府と表裏の関係で人類の統治に貢献しているらしい。表立って行えないアナーキズム弾圧を裏の組織が引き受けるわけです。扱いにくいライトも裏取引でシンジケートに払い下げられてしまう。

どこにも救いはない…

洗脳されかけたライトに闇の力が手を差し伸べます。
ついに私は、おのれの属する世界を見出したのだ。が、ー本当にそうだったろうか。
私は依然としてまがまがしいブラック・モンスターであり、悪霊でしかないのだ(P302)
サイボーグ特捜官を戦力として欲した闇の力が、ライトの予知能力を封じたのがことの発端という疑惑は拭えません。怪物的な戦闘力を駒として使い潰すつもりなのは、どの組織も共通です。

未完の連作短編

1人称の連作短編ですが、第3話は第3者の視点です。第2話は結末まで語らずに流すパターンですが、他は記憶操作されたライトの不連続な視点で語られます。「三つ巴の戦いはこれからどうなる!」というところで幕となり未完です。ただし、伏線は回収されて世界の真相がおぼろげに浮かび上がっています。

灰色のバッドエンド

熱い情念がほとばしる人類ダメ小説でもあるけれど、後の作品に比べて感情は抑制気味です。特権階級を擁護する表と裏の体制を唾棄しますが、新生超能力集団もイノセントからはほど遠い。正邪があいまいな灰色のバッドエンドとも言えます。続編を書いたとしても、ライトは破滅に向かって突き進むしかなさそうです。

続編が読みたかったけれど…

1971年の出版ですから、読んだのは中学生の時です。「決着はどうなるんだ?続きが読みてぇ!」と悶々としたものでしたが…。50年近く経っても再読に耐えます。かっちりしたプロットも、暗い余韻を残すラストシーンもバッチリです。救いのない終わり方ですが、乾いた感傷に浸れるので読後感も悪くない。未完の傑作でよかったのかもしれません。

インパクト絶大だった

筆者はTVアニメで大ヒットした「エイトマン」で漫画原作者デビュー、本書はその設定を一部引き継いでいます。「SFマガジン」初出は1968~1969年なので、「虎の時代」の作品です。売れない時代の鬱屈した感情も反映しているのか、ドロドロした心理描写が目立ちます。当時の中学生にはそこが刺激的で、私の「異能力バトル」好きはこの作品で決定付けられました。

個人的なマイ・ベスト平井和正

商業的成功を収めて人気作家に上り詰める「狼の時代」の作品も好きです。ストーリー展開がわかりやすくなり、ヒーローの人物造形も感情移入しやすくなっていった。読者の心を揺さぶるツボを押さえていました(天使憑きになるまではw)。でも、個人的には本書がマイ・ベストかな。その後、本書を超えるSFアクションにはほとんど出会えていません。

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