「カウントダウン」真梨 幸子

余命、半年…

「カウントダウン」真梨 幸子
宝島社、305ページ
年収7000万円超の「お掃除コンシェルジュ」の終活は波乱含みw


終活開始!

海老名亜希子(50歳)はバツイチの人気エッセイスト、歩道橋から転落した時の検査で喉に甲状腺未分化癌が見つかり「余命は半年」と宣告されます。QOLを優先してガンと戦わず、有終の美を飾るための終活を開始する。百貨店のベテラン外商・薬王寺の協力で、汚部屋だった三鷹のマンションは業者によって片付けが終了しました。

似たもの姉妹

しかし、元夫・洋輔を略奪した10歳年下の妹・美奈子との決着は容易ではありません。亜希子は家庭内不和や身近の人物をネタにした本でブレイクしましたが、美奈子も身内の恥を赤裸々に綴った「もったいないおばさん」で翡翠新人賞を受賞します。どちらも負けず嫌いのエゴイストです。

ネットはストーカー製造装置

スーパー主婦ブロガーとなった平河智子は元同僚、彼女もガンを宣告しています。今はネットで知り合いの日常をチェックでき、亜希子は智子や美奈子のブログを見る度に頭に血が上るw 「憐れみを受けたくない。無様な姿を晒せない。人生のピークで息絶えたい」それが生きるモチベーションでしたが、汚部屋のプライベート画像が流出してしまう。

終盤は一気に急展開

7章の冒頭に「南青山のマンションから女が飛び降りた」という新聞記事が載り、事態は急展開します。怪しげな人物が多数出没していますが、自ら命を絶ったのではなく絶たれたのか。歩道橋からの転落は事故ではなく事件だったのか。「ちょっと強引なまとめ方だなあ」と感じたのですが…。

どんでん返し

容疑者逮捕の記事が出て一件落着かと思えば、
「癌との戦いは放棄したけれど、人生という「戦場」からは最期まで逃げ出したくなかったのでしょうね」(P288)
どんでん返しがあります。遺産相続で骨肉の争いを生じさせ、美奈子と智子に最大限のダメージを与える。墓場の陰から高笑いが聞こえてきそうな状況ですw

「悪気なし」がエクスキューズにならない

美奈子からすれば亜希子こそ泥棒猫。ソープオペラの被害者と加害者は見る立場で逆転する。亜希子は悲劇の文筆家として映画化の話も持ち上がりますが…。女同士のマウンティングはどの集団にもあるでしょうが、それとは別次元の許されない言動もあります。四十数年前の出来事を加害者は忘れているけれど、被害者が忘れることはない。

ダブル・トリプルのどんでん返し

8章でもう一段底があると明かされ、エンディングで忘れていた過去の出来事が追いついてきます。ぐるっと回ってエンディングがイントロダクションの白い手に結びつきます。ラストはダブル・トリプルのどんでん返しで畳み掛けてくる。伏線がきれいに回収されてミステリ要素も濃いです。

くどくない適度なイヤミス度

マツオヒロミのシックで華麗なカバーイラストにつられ、図書館でジャケ借り?してきました。末期がん患者という深刻な状況なのに、語り口はコミカルで漫画チックな物語進行です。毒々しくなりがちな略奪愛や見栄の張り合いは、思ったよりも軽めに流されています。

「女は見栄と自惚れでできている」

「プライバシーを切り売りする神経の太さ、他人の痛みに鈍感な暴君」などなど、周囲にいてほしくないタイプの人物造形が手慣れています。「他人は客観視して鋭く分析できるのに自分は見えない。計算高く世俗的成功に貪欲」このあたりまでは、多くの人に当てはまるのでしょう。でも、他人の人生を平気で踏みにじって我意を貫くのは規格外…。

チラつく悪意の描き方が巧み

くどい描写は省いて「あとは読者が想像してね」というスタンスなのかな。新聞の囲み記事を有効に使って、スパッと場面転換しています。構想が計算し尽くされていて、7章以降はあっけにとられている内に読了してしまいました。謎解き部分は突飛なのですが、その非現実感のおかげで読後感の悪さが中和されています。

残念ながら想定読者外

読みやすくて面白かった♪どんでん返しも楽しめました。でも、私には合わないようです(笑)。女性読者には常識の小ネタ(ランチ派閥とか)がピンとこないのです。女同士のマウンティングを頭で理解できても、実感は湧きません。「そういう女いるよね、私は違うけど」みたいなノリでスッと話に入っていけないので、中盤までが退屈でした。

意外とイヤミスっておもしろい

これは作品の出来とは無関係な個人的事情なので仕方ありません。初出が「大人のおしゃれ手帖」ですから、想定読者は女性です。私は初老の独居老人、興味の対象がカブルわけがないw しかし、本書はイヤミスに対する偏見を払拭してくれました。次はもう少しハードルを上げて「ふたり狂い」に挑戦してみようかな。